民法改正の目的
民法(債権法)を改正する主な目的
民法を制定以来の社会・経済の変化に対応させること
民法は1860年(明治29年)に制定、1898年に施行され、制定から120年以上経過しています。この明治時代に制定された民法を現代の取引事情に合わせるために改正するということです。また、近年の諸外国の契約法の制定や改正に伴い、日本においても国際的に透明性の高い契約ルールの整備を図る必要があったからです。
一般の国民にわかりやすいものにすること
民法制定以来、裁判実務では多くの判例が形成され、この判例をもとに現在では実務が行われている。判例を十分に理解していなければ民法が使えないというのは問題であり、判例等を明文化して、国民にとって民法を分かりやすいものとする必要があり、弁護士等の法律の専門家のみならず、一般人が読んで分かる民法にすべきということが求められているのである。
以上が改正の民法改正の目的になりますが、大幅な改正になりますが、今回は瑕疵担保責任との違いを交えて、契約不適合責任について解説していきます。
2. 旧民法における瑕疵担保責任とは?
契約不適合責任について解説する前に、瑕疵担保責任について軽くおさらいしておきましょう。
瑕疵担保責任とは?
「瑕疵(かし)」とはキズ、欠陥、不具合のことで、売買契約の目的物が通常有すべき品質・性能を欠くことをいいます。
改正前民法では不動産取引の「瑕疵担保責任」では、購入後のトラブルを防ぐために、予め売主が知らなかった「隠れた瑕疵」についても、売主が責任を持つ期間や範囲を定めていました。
「隠れた瑕疵(かし)」とは、売主がその事実を知らず、買主も通常の注意を払ったが発見できない瑕疵のことです。瑕疵の存在を知らなかった買主は、「隠れた瑕疵(かし)」によって売買の目的が達成できない場合には、買主は「隠れた瑕疵(かし)」を発見してから1年以内は売主に対し損害賠償請求を、契約の目的の達成できない場合は契約解除ができると改正前民法では定めています。

瑕疵担保責任では、買主が売主に対して請求できる権利は、「損害賠償請求」と「契約解除」の2つだけに限られていたという点がポイントです。
改正前第570条 (売主の瑕疵担保責任)
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
改正前第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
- 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
- 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
- 前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知ったときから1年以内にしなければならない。
新築住宅・中古住宅の瑕疵担保責任の期間
新築住宅の場合は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」によって、「構造耐力上主要な部分」および「雨水の浸入を防止する部分」の瑕疵について、売主・工事請負人は、買主・注文者に対して住宅を引き渡した時から10年間、瑕疵担保責任を負う。
中古住宅の場合はは売主が不動産会社か個人かによって異なります。売主が不動産会社の場合、宅地建物取引業法により瑕疵担保責任の期間は引渡しから、2年以上とする特約にしないと有効とはなりません。
個人の売主の場合は、瑕疵担保責任の期間は、売主と買主との交渉によって決められます。 一般的には1~3か月程度となることが多い様です。
契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、売買契約や請負契約の履行において、引き渡された売買の目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主が買主に対して負うこととなる責任です。
改正前民法の瑕疵担保責任は、買主が通常の注意を払ったにも関わらず発見できなかった「隠れた瑕疵(かし)」であれば、売主の責任を追及できるものでしたが、改正後民法の契約不適合責任は「隠れた瑕疵(かし)」である必要はなく、契約書に書かれている内容と異なるものを売ったことにより、売主は責任を負うことになります。
争点が「買主が通常の注意を払らえば発見できたかどうか」ではなく、「契約書に書かれていたかどうか」になります。では契約不適合責任と瑕疵担保責任の具体的な違いを見ていきましょう。
瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い
瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いをまとめると以下の通りです。
項目 | 瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 |
法的性質 | 法定責任 | 契約責任 |
対象 | 隠れた瑕疵 | 契約内容との不適合 |
請求期限 | 1年以内 | 事実を知ってから1年以内に告知 |
買主が請求できる権利 | 契約解除 損害賠償請求 |
追完請求 代金減額請求 催告解除 無催告解除 損害賠償請求 |
損害賠償責任 | 無過失責任 | 過失責任 |
損害の範囲 | 信頼利益 | 履行利益 |
不動産はこの世に同じものはない特定物なので、売主が買主に引き渡せば成約は完全に履行されたといえますが、瑕疵(かし)があった場合は支払った代金は不公平になります。売主に故意・過失がなくても、その不公平を是正するために法定された無過失責任が瑕疵担保責任です。契約不適合責任は契約に定められた内容に合致しない場合に売主が買主に責任を負う契約責任となっています。
買主が請求できる範囲は、瑕疵担保責任では「契約解除」と「損害賠償」の2つだけだったのに対し、契約不適合責任では「追完請求」、「代金減額請求」、「催告解除」、「無催告解除」、「損害賠償請求」の5つが請求できるようになり、 損害賠償請求については、売主が無過失か過失かの違いや、損害の範囲が信頼利益に限定されるか、履行利益も含まれるか等の違いがあります。
- 信頼利益とは、契約が不成立・無効になった場合に、それを有効であると信じたことによって被った損害です。例えば、登記費用などの契約締結のための準備費用が信頼利益となります。
- 履行利益とは、契約が履行されたならば債権者が得られたであろう利益を失った損害です。例えば、転売利益や営業利益などが履行利益に該当します。
次は契約不適合責任で買主が請求できる5つの権利についてみていきましょう。
契約不適合責任で買主が請求できる5つの権利
改正前民法の瑕疵担保責任については、買主が請求できる権利は「損害賠償請求」及び「契約解除」のみでしたが、改正後民法の契約不適合責任では、売主が契約内容と異なるものを売却したときは、買主は「追完請求」、「代金減額請求」、「催告解除」、「無催告解除」、「損害賠償請求」の5つができるようになります。

それでは、契約不適合責任における5つの買主の請求権を見ていきましょう。
追完請求
契約不適合責任における「追完請求」とは、物件引渡したときには、不完全な状態であったため、改めて、完全な状態のものを引き渡してくださいと請求する権利です。
具体的には、買主は、契約不適合責任として、履行の追完を請求するときは、「修補」「代替物の引渡し」「不足分の引渡し」のいずれかを請求することができます。 つまり、「直してください」「代替物を引き渡してください」「不足している分を引き渡してください」といった請求ができるようになったのです。 売主に特段の落ち度がなかったとしても、契約内容と異なるものを売却してしまえば追完請求を受けることになります。
これは完璧な物件を引き渡さなければいけないということではなく、例えば引き渡した物件に不具合があったとしても、それを契約内容にしっかりと明記し、買主が了解して引渡しを受けている場合には、補修や代わりのものを引き渡す必要がありません。
追完請求に関しては、改正後民法では第562条に規定されてます。
改正後第562条 (買主の追完請求権)
- 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
- 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
代金減額請求権
代金減額請求権は、追完請求をしても売主が目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しをしないときについて、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる権利です。
補修できるものであれば、まず追完請求の催告をして、それでも対応してもらえない時に「代金を減額して下さい。」と請求ができることになります。ただし、改正後第563条2項では、補修などができず、追完が不可能な場合や売主が追完には応じないと意思表示したとき等は、催告せずに直ちに代金の減額請求ができることも規定されています。
代金減額請求に関しては、改正後民法では第563条に規定されます。
改正後第563条(買主の代金減額請求権)
- 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
- 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。一、履行の追完が不能であるとき。
二、売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三、契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四、前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。 - 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
催告解除
催告解除は、代金減額請求権と同じように、追完請求をしても売主が目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しをしない場合に買主が催告して解除できる権利です。ただし、契約の不適合の程度がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときはできないことになっています。
催告解除に関しては、改正後民法では第541条に規定されます。
改正後第541条(催告による解除)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
無催告解除
契約不適合責任では、買主に「無催告解除」という権利も認められています。
代金減額請求にも無催告でできる代金減額請求権がありましたが、解除についても無催告でできる解除があります。
無催告解除は、債務の履行が不可能な場合や売主が履行に応じないと意思表示したとき等、契約の目的を達成することができない場合に、催告せずに直ちに契約の解除ができます。逆に軽微な不具合で契約の目的が達成できる場合には無催告解除は認めらません。
無催告解除に関しては、新民法では第542条に規定されます。
改正後第542条(催告によらない解除)
- 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達成することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。 - 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部を解除することができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
損害賠償請求
瑕疵担保責任では、売主の帰すべき事由があってもなくても、買主は損害賠償請求ができる無過失責任でした。契約不適合責任でも、買主に「損害賠償請求」の権利も認められてますが、売主に帰責事由がある場合に限り、損害賠償の請求をする事ができます。つまり、売主に責めに帰すべき事由がない場合は、売主は損害賠償義務を免れます。
また、瑕疵担保責任の損害賠償請求の範囲は信頼利益に限られます。それに対して契約不適合責任の損害賠償請求の範囲は履行利益も含みます。信頼利益とは、契約が不成立・無効になった場合に、それを有効であると信じたことによって被った損害です。例えば、登記費用などの契約締結のための準備費用が信頼利益となります。一方で、履行利益とは、契約が履行されたならば債権者が得られたであろう利益を失った損害です。例えば、転売利益や営業利益などが履行利益に該当します。よって、売主が契約不適合責任で損害賠償しなければならない範囲は、瑕疵担保責任と比較して格段に広くなってしまったということになります。
損害賠償請求に関しては、新民法では第415条に規定されます。
改正後第415条(債務不履行による損害賠償)
- 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
- 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一、債務の履行が不能であるとき。
二、債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三、債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除さ れ、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
契約不適合責任においても、免責特約を結ぶことは可能か?
瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わることによって、買主から売主に対して請求できる権利が増え、損害賠償請求も過失責任になりますが、責任の範囲は履行利益となるので、瑕疵担保責任と比べると責任の範囲が格段と広がり、売主に対して負担が大きくなります。
ただ、改正後民法の契約不適合責任は改正前民法の瑕疵担保責任と同じ「任意規定」であり、売主と買主の合意により、一部免責や全部免責をする特約については、契約不適合責任においても有効です。
改正後民法の契約不適合責任は任意規定ですので、売主の負担を軽減するような特約を締結しても有効です。そのため、改正後民法の契約不適合責任では、売買契約書の特約・容認事項をしっかり書くことが最も重要になります。
売買契約書には、定型的な条文の他、個々の物件の条件に合わせて特約・容認事項が記載できる欄があるのが一般的です。契約不適合責任では、目的物が何かをはっきりさせる必要があるため、特約・容認事項の欄に「目的物はどのようなものであるか」をぎっしりと書くことになります。売主としては、気になることは全て容認事項に書きだし、契約書と物件の現状を適合させることが重要となります。
契約不適合責任におけるインスペクションの重要性
契約不適合責任では、売買契約書に目的物の内容を記載するために、「目的物とは何か」という点を事前に明確にする必要があります。 例えば、対象物件が「雨漏れしているのか、雨漏れしていないのか」ということが事前に明確になっている必要があるということです。 そこで、目的物の内容を明確にする為に、事前にインスペクションを行うことが望ましい対応となります。 インスペクションとは、主に柱や基礎、壁、屋根などの構造耐力上主要な部分や、外壁や開口部などの雨水の浸入を防止する部分について、専門家による目視や計測等の建物状況調査のことをいいます。 インスペクション制度は2018年4月からの宅地建物取引業法の改正によりスタートしました。契約不適合責任では目的物の内容を契約書や重要事項説明書で明確にし、それを記載する必要があることから、 インスペクションは売主を契約不適合責任から守るために有効な手段ですので、不安を取り除くためにも上手く活用する必要があります。

まとめ
いかがでしたか。 契約不適合責任について解説してきました。 契約不適合責任は、「民法を制定以来の社会・経済の変化に対応させること」と「わかりやすい民法にすること」を目的に創設された新たな制度です。 契約不適合責任では、買主が「追完請求」、「代金減額請求」、「催告解除」、「無催告解除」、「損害賠償請求」の5つを請求できるようになり、売主の責任は一層重くなりますが、事前にインスペクションを実施して契約書や重要事項説明書に目的物の内容をしっかりと記載することで不要な責任を問われないよう準備した上で売却に臨むようにしましょう。